「道州制」は国家の制度、と言っても私たちの生活から遠く離れたものではありません。何気ない普段の生活の中にも道州制のあり方を示すヒントが隠されています。

私たちの生活と道州制

2004年初秋、東京から特急で1時間半ほどの地方都市Rでの出来事。 
 道州博士は、様々な問題を抱える日本の未来を憂い、日本の仕組みを根本から変える道州制について日々研究を進めていた。そんなある日のこと来年受験を控えた元高校球児のB君が道州博士のもとを訪ねてくる。

B君:「博士~、最近受験の論文対策に新聞を読み始めたんだけど、どうやら今日本では、地方分権というものが進んでいて、最終的には都道府県が合体して日本国内にいくつもの国のようなものができる道州制になるって書いてあったんだけどなんのことだかさっぱりわからないんだ。」

道州博士:「そのとおりじゃ、現在国と地方の関係にまつわる様々な問題が検討されておるぞ。市町村合併、三位一体の改革などの言葉は確かに毎日新聞紙面上を飾っておる。そもそも日本という国は明治維新以来、国力を1国単位で考え、国家の富はどこで生産しても同じ、国の富が多ければ日本国民みな幸福だと考えたんじゃよ。第二次世界大戦後も高度成長期のような右肩上がりの時代はそのおかげで国民全体が豊かさを享受し世界第2位の経済大国を作り上げたんだ。ただ、一通り日本全体に豊かさが行き渡った現在のような低成長時代には全国画一的に政治・行政・経済活動を行っていくことはそぐわなくなった。そこで地方がそれぞれ権限とお金(税金)を使って、地域独自でできることはやるという考え方が浸透してきたのじゃ。」

B君:「なんかピンとこないな~。」

道州博士:「B君は確か、元野球部だったね」

B君:「そうだよ。」

道州博士:「なら当然、今年のプロ野球の合併問題から始まったスト騒ぎは知ってるよね。」

B君:「当然」

道州博士:「日本のプロ野球の世界はまさしく今の日本の構造を表しているんだ。現在日本のプロ野球球団は東京中心に5球団(巨人、ヤクルト、横浜、西武、ロッテ)、大阪中心に3球団(阪神、近鉄、オリックス)、地方には福岡のダイエー、広島、名古屋の中日、札幌の日ハムとなっている。大都市中心でかつ権力や金という意味では、東京にある巨人への完全な一極集中状態になっている。

 今回の合併及びストライキの原因となった、球団の赤字経営などはこの一極集中が原因だといわれておる。プロ野球選手会は、プロ野球界の改革として東京集中から新規参入、地方分散を掲げ、ファン・世論も応援する声を大きくしている。こんなプロ野球とは対照的にサッカーのJリーグは設立当初から地域密着脱企業を掲げ、全国各地にホームタウンを作り、アルビレックス新潟など短い期間で小さいながら完全に地元に根付き優良経営を行い、地域コミュニティを活性化させている。このプロ野球とJリーグの関係がまさに今までの中央集権体制の日本と道州制導入後の日本を表しておるのじゃ。」

B君:「なるほど、プロ野球でも福岡のダイエーや北海道の日本ハムなどは地域密着で成功を収めているもんな。日本全体の政治や行政、経済の仕組みをJリーグのように地域密着に変えようというのが道州制の目的なんだ。」

道州博士:「そうじゃ、なかなか筋が良いのぉ。」

昨年、共働きしながら出産したCさんも道州博士に相談しにやってきた。

Cさん:「博士、私も今本当に困っているのよ。育児休暇も終わり、職場復帰しようと思っていたんだけど地元でいい保育園が見つからないの。職場の近くにはあるんだけど、片道1時間半以上の通勤ラッシュの中子供を連れて行くのはとても危険だわ。」

道州博士:「Cさんが悩んでいるような育児の問題も国の仕組みが原因となっていることが多いんじゃよ。例えば、地元にいい保育園がないということだが、幼稚園やお金のすごくかかる保育園は空いていたりしないかい?」

Cさん:「そうなのよ。幼稚園は園児が不足しているといっても仕事から帰るまでは預かってくれないし、認可外保育園は空いていても保育費が本当に高いのよ。」

道州博士:「これは日本の行政が中央集権で全国均一の仕組みで世の中を動かしてきたことに原因があるんじゃ。保育園は厚生労働省、幼稚園は文部科学省が管轄していて保育園には調理場がなければならないというような強引な理由で2つを分けて管理してきた。それは役人が自分たちの権益を守るためだという意見もある。また保育園の中でも認可基準を厳格に定め、認可の下りた保育園には補助金等で大変な格差をつけたので保育費に跳ね返ったのじゃ。

 道州制が導入され、地域主権が進むと自治体レベルでその地域に合った幼児教育を行うことが可能になるんじゃ。例えば、認可保育園の基準を変更したり、幼稚園と保育園を一体化することも地域住民のニーズによって可能になるのじゃ。」

Cさん:「国の役人の都合で私たちの生活が不便になっているとしたら本当に頭にくるわ、道州制が導入され、身近なことは自分たちで決められるようになるといいわね。」

道州博士:「もっといえば、そもそもCさんが片道1時間半以上かけて出勤しないといけないのも東京に企業が集中し、人口や経済活動が東京へ一極集中しているからなのじゃ。道州制が導入され、地域主権が進めば、それぞれの地域がその特性を活かした地域独自のライフスタイルを提案することができるようになり、人々が価値観に応じて住みたい場所,自分の望むライフスタイルが実現できる地域を選択することができるようになる。

 そして、生活のゆとりや家族生活といった会社以外の時間への関心が高まるにつれて、企業側も変化してくるのではないかな。長い通勤時間を嫌い、豊かな家庭生活を実現するための住宅環境のある土地を選ぶ人々に働いてもらうためには、企業側が人々の集まる地域に出向いて立地する必要が出てくる。地域行政は魅力的なライフスタイルを提案し、教育環境や住宅環境、育児環境を整え、それによって人々が集まり、そして企業がそれぞれの地域へ進出することで、地域もまた活性化される、こういった好循環が生まれてくるわけじゃ。地域コミュニティのつながりが深まると、育児経験者によるボランティア活動などにより、お父さん・お母さんの育児による負担を減らすような取り組みも盛んになってくるはずじゃよ。」

Cさん:「そんな世の中になったら最高ね。」

B君:「そういえば、僕の友達で駅前の商店街でお店をやってる家の子達がいるんだ。この前学校でこんな会話してたんだけど、これも同じような問題なのかな?」

D君:「E君、金物屋のお店を継ぐのかい。」

E君:「お客さんが少なくなったから継がない。おやじもどこかに働きに行こうかって言ってるし、俺は大学に行って就職するよ。」

D君:「そうかっ。駅前商店街にはシャッターの下りた店が増え、人通りも少なく寂しいよな。大学に行った先輩達は帰ってこないもの。」

E君:「商店街は年寄りばかりで、早く店を閉めて真っ暗だ。みんな郊外の大型DIYやショッピングセンターができ、そちらに買いに行っているんだよ。」

D君:「○○銀行の××支店も閉まってしまったね。」

E君:「ああ、バレー部の先輩は銀行の合併で会社を変わったって聞いたよ。あの人気のあったテーマパークも閉鎖したしね。」

D君:「ビルや街はきれいになった、道も広くなっているけど、住む人が少なくなっている。就職先が少なくて、これじゃ、まち(地方都市)に帰ってこないよね。俺達もきっと帰れないね。」

 

道州博士:「これはまさしく今の日本の現状を表した会話じゃな。一部を除き、全国の地方都市はほとんどこういう状況だね。これらの原因の多くは、日本の法律が全国一律で、地方の特色がなくなり、東京に一局集中してしまった結果にあるのじゃ。東京の価値観(仕事のやり方・言葉・建築・価格・流行・生活スタイル)が全国に押し付けられている。

 みんなの心の中にも、支店よりも本社(ほとんどが東京にある)の方が上、町より市、市より県、県より国(政府・中央官庁は東京にある)と言うような上下関係の位置づけがないだろうか。地方人より都会人(東京人)の方がかっこいいと思っていないかな。ひと・金・ものが東京に集まり、この結果、みんなが気づかないで地方を捨てているのじゃ。

 みんなは日本とイギリスやフランスを比べてどのように思うだろうか。日本は人口でも経済力でもこの二つの国の合計を上回っておる。イギリスとフランスでは文化も経済も言葉も独自性がある。しかしロンドンとパリの距離はユーロスター(鉄道)で3時間、東京-大阪間くらいのものじゃ。また、日本は韓国に比べ9倍の経済規模があり、日本国内にソウルのような都市を9つ作ることもできるのじゃ。法律を少し変えて、日本国内に韓国程度の規模の国(地方分権)を9つ創り、特色のある地域にしようとする考え方があるのじゃ。

 地方分権とは、このように地方に権限と税金を持たせ、地方の自立や独自性を目指す、仕組みへの変更じゃ。このようにすれば、もっと近くに本店や中央官庁やにぎわう街ができ、今のところに住みながら通勤圏内で仕事ができる社会になるのではないかと思われているんじゃ。また、法律にも独自性があれば、日本国内はもっと特色ある地域発展が生れるはずじゃ。」

B君:「博士、分かったよ。明日学校に行ったら、D君やE君と僕らでもこの町に対して何かできることがあるんじゃないかと考えてみるよ。だって心の底ではみんなこの町のことが好きなんだ!」

Cさん:「私も同じような悩みを抱えてるお父さん・お母さんと協力して何か考えてみるわ。」

道州博士:「B君もCさんも素晴らしいのぉ。道州制を導入することが大事なのではない。まず、生活者であるみんなが自分のこと、家族のこと、地域のことを考えて行動することが一番大切なのじゃ。けどB君は受験勉強も忘れちゃいかんよ。」

B君:「は~い。」